
7月22日ニュルブルクリンク・サーキットでGP2のレースを終え、GP2の所属チーム、BCNのモーターホームで次のレースのミーティング中に、左近はマネージャーから耳を疑う言葉を聞いた。「スパイカーのコリン・コレリス代表が、次のハンガリーGPからスパイカーに乗らないかと言ってきた」。
左近「 最初は、何を言ってんだろうって。ちょっと信じられなかったけれど、ウソではなかった(笑)。正直、GP2チームとの契約もあるし、最初はちょっと戸惑いましたが、このチャンスを活かすべきだと思い、オファーを受けることにしました」
7月25日火曜日、左近はスパイカーの本拠地があるシルバーストンに向かい、そこで契約書にサインした。急転直下、一歩引き下がったGP2から、再びF1に乗れることになったのだ。初舞台は、F1GP第1戦ハンガリーGP。左近は、ぶっつけ本番で、F1のシートに戻ることになった。
●8月2日(木曜日)
左近の復帰戦は、この日から3日間、ブダペストのオンガロリンク・サーキットで行なわれる。水曜日にブダペストに到着して、マネージャーとホテルにチェックインした左近は、自分がF1ドライバーに戻ったことを改めて認識した。ホテルはメリディアン。ブダとペストを区切るドナウ川沿いに建つ一流ホテルだ。GP2時代とはホテルの待遇からして違うのだった。
オンガロリンク・サーキットは、ブダペストの街からクルマで30分ほど西に走った小高い丘の上にある。木曜日にオレンジ色のチームウェアを着てサーキットに現れた左近は、チームスタッフに挨拶。F1ドライバーに復帰して最初の仕事は、FIAの合同記者会見だった。左近は、同じくこのレースからトロ・ロッソに乗るセバスチャン・ベッテル、1年前にザウバーBMWのドライバーとなったロベルト・クビツァ、そして今年フェラーリに移籍したキミ・ライコネンとともに、FIAの会見ヒナ壇に並び、記者の質問に英語で応じた。
会見を済ませた左近は、ガレージでゼッケン21の自分のマシンと再会し、最後のシート合わせを行なう。契約書にサインした日のうちにスパイカーのガレージでシート合わせは済ませていたが、改めて細かい最終調整をしてエンジニアと明日の打ち合せを済ませた。
--突然復帰することになりました。
左近 「ええ、ビックリしました」
--本人がビックリするのでは,こっちが驚くのも無理もない(笑)。
左近「ですね(笑)」
--ぶっつけ本番になりますが。
左近「でも、明日、3時間走れますから。それに、ほとんどのサーキットが去年スーパー・アグリで走っているし、一緒に仕事をするスタッフも、一昨年日本GPでジョーダンに乗ったときと同じなので、とてもファミリアーでやりやすいです」
--オンガロリンクのコースにはどんな印象がありますか?
左近 「去年初めて来たときは、抜き所もないし、つまらないコースかと思っていましたが、いざ走ってみると、アップダウンもあるし、チャレンジングで面白いコースでしたね」
--今の気分は?
左近「とにかく走りたいです」
●8月3日(金曜日)
金曜日は、11時からと14時から、それぞれ1時間半ずつのフリー走行が行なわれた。この合計3時間で、土曜日の予選と日曜日のレースの準備をしなければならない。
--復帰初日を終えて、どんな気分ですか?
左近「最初のセッションに出て行くときは、特別な感慨もなく無心でした。ただ、シートが合っているかどうかは心配でした。ガレージでは問題なかったけれど、実際に走り出してGがかかってみると、危惧したとおり、身体がズレて、視点が低いことがすぐに分かったんです。ピットに戻って高くしたけれど、身体が上がった分、横のサポートに身体を預けられなくなって。午前中は大変でした」
--いろいろなことを学んだ1日だと思います。
左近「ですね。スパイカーのマシン特性とか、2種類のタイヤの違いとか、いろいろなことが分かりました。スーパーソフト・タイヤでもアタックしましたが、明日の予選と、明後日の決勝に向けてデータが取れた、いい1日だったと思います」
●8月4日(土曜日)
午前11時から1時間のフリー走行で最後の仕上げを行なった後、14時から予選が始まる。予選は、3つのセッションに分かれ、6台ずつが振り落とされるノックアウト方式。左近のチーム、スパイカーは、2台とも最初の6台に入ってしまうが、さらに左近はタイミングが悪かった。アタックに入った周、前にルノーのフィジケラがピットアウトしてきたのだ。トップ10を争うルノーの速さは承知していたので、すぐに離れていくと思って最終コーナーに全開で進入した左近の目の前に、加速していないフィジケラのマシンが現れた。
左近は、ブレーキを踏まざるを得ず、タイムはチームメイトのエイドリアン・スーティルから1.4秒遅れの最下位となった。フィジケラはこの件でグリッドポジションを5つ下げられるペナルティを受けたが、フィジケラとともに事情聴取に呼ばれた左近は、「仕方ないですね」と気にしていなかった。
--スケジュールは順調に進んでいますか?
左近 「最後のアタックは、まぁ残念でしたが、ずっとプッシュして走れたし、昨日不具合があったシートも修正されていたし、まだまだ満足できるレベルではないけれど、前向きに毎日力一杯できているので、順調だと思います」
--いまちょうどGP2のレース中ですが。
左近 「不思議な感じですね(笑)。2週間前までは、今この時間に走っているはずでしたから。ただ、木曜日にここにきてからスパイカーの一員としてやってきたけれど、GP2のことを考える余裕もなかったです。金曜日に走り出してすぐに、F1の感覚が好きだという自分を再確認して、そこからは、いかに速く走らせるかだけを考えています。速く走ることを意識した上で、明日はまずは完走したいですね」
●8月5日(日曜日)
心配された雨もなく、ブダペストは30度を越す真夏日となった。シンガリからスタートした左近は、バトン、スーティル、バリチェロに続いて22番手を走っていた。しかし、6周目の11コーナー、オンガロリンクで最もスピードが乗る右コーナーで突然リヤが流れる。
--まずは完走が目標でしたが。
左近「残念です。というか、限界がつかめていなかったことが悔しいです。エンジニアからも『300kmのテストのつもりで』と言われていましたが、レースなのでプッシュ(全力走行)しないわけにもいかないし」
--スピンはんな状況だったのですか?
左近「ちょっとオーバースピードだったと思います。バリチェロの後ろで、タービュランス(気流の乱れ)の影響やバランスなどに最初は戸惑いましたが、離れないように前に付いていくことが重要と思っていました。そこで引き離されると次につながらないと思っていましたから」
――テストのつもりとは言え、レースはレース、と。
左近 「ですね。できる限りプッシュしていたんですが、6周目の緩い右コーナーのエントリーでステアリングを切った瞬間に突然リヤが流れて。スピンしてF1の速さがよく分かりました(笑)。本当に速い。260㎞/hくらいからのスピンは全然止まらない。広いセフティーゾーンがあるから大丈夫と思ったけれど、止まりきれず、タイヤバリアに当たってしまいました。サスペンションがちょっと折れただけでしたが、そこでレースを終わらなければならなかったのは本当に残念です。燃料を積んだ状態で走っていなかったので、クルマが重いときの状況がつかめていなかったのが原因のひとつですが、それ以上に、去年学んだことを活かせずにこの結果になってしまったのが悔しいですね。次に向けて今回のミスを繰り返さないようにします」
●新車のシェイクダウン
8月15日にスパイカーは本拠地に隣接するシルバーストン・サーキットでシェイクダウンテストを行なう。左近はシェイクダウンに限って50kmだけ許されるそのテストを担当する。
左近 「距離規制があるので50kmしか走れませんが、フィーリングは分かると思うので、トルコGPへの準備としては大きいと思います。Bスペック(の新車)はポテンシャルアップしているということですので楽しみです。新しいクルマの場合、初期トラブルが心配ですが、チームがしっかりしているので本当に楽しみです」
次のトルコGPは、イスタンブール・サーキットが舞台だ。フリー走行は、8月24日に始まる。新しいマシンを引っさげて、左近の2ndステージが加速する。
(Masami Yamaguchi/MYS)
